発展のための不変の法則『世界を変えた発明と特許』

「特許は天才の火に油を注いだ」、第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーン(ドヤァ)。
本書の第8章「レントゲンはなぜ特許を取らなかったのか」には発展のための不変の法則が表れていたように思う。
オヌヌメ(`・ω・´)

世界を変えた発明と特許 (ちくま新書)
世界を変えた発明と特許 (ちくま新書)
石井 正 (著)


■ 大発明の裏に特許あり
人類の歴史を彩る大発明の数々、それらは「パイオニア発明」と呼ばれる。
本書で取り上げられるのも、いずれも人類史に名だたるパイオニア発明ばかり。ワットの蒸気機関エジソンの電力システム、ライト兄弟の飛行機、マルコーニの無線、ショックレーのトランジスタ、キルビー&ノイスの半導体豊田佐吉・喜一郎の自動車、レントゲン博士のX線、などなど。
そして、その大発明の裏に特許あり。しかし特許の歴史は特許制度のその目的に反し、技術革新に対する阻害と弊害の歴史でもあった。

  • ライセンス使用を許さず「英国の蒸気機関の技術進歩を止めた」と非難されたワットの蒸気機関特許
  • 高額なライセンス料により飛行機生産者ひいては大戦直前のアメリカ政府をも悩ませたライト兄弟の飛行機特許

などの事例を本書は取り上げる。そして歴史がそれにどう対応してきたかということも*1




■ "特許"の本質は「公開性」にあり!
さて本題。レントゲン博士が特許を取得しなかったことは科学技術の発展に寄与したのか。博士が特許を取得しなかった意図は、広くX線の研究成果を公開してどんどん使ってもらうということであった。そして実際にX線は広く利用された。
まどろっこしいので結論を述べるが、学術的論文にせよ、特許にせよ、その発展のために「公開性」を必要としているということに違いはない。「特許」"patent"の原語である"patentes"がラテン語で「公開する」という意味であることも頷ける。特許は金銭的な対価によって、貴重な技術革新をその発見者が秘匿しないようにするための制度だということが改めて認識できる。
以上を踏まえ、特許と広く"科学"を志向する学術的論文という2枠で、両者の似ている部分と異なる部分を抽出してみた。

  • 似ている: 公開性―科学技術の発展に寄与しようとする
  • 異なる: "発見"に金銭的な対価を求めるかどうか

つまり特許制度そのものにはライセンス使用料を得るという"上澄み"部分の違いこそあれ、学術的な論文との間には「科学技術の発展に寄与する(そしてそうすることで社会に便益をもたらす)」という根源的な目標における違いはないということが分かる。レントゲン博士の例で言えば特許を取得するかどうかは「"発見"に金銭的な対価を求めるかどうか」という思想の問題でしかない。



■ 科学技術の発展のための不変の条件
前節で指摘したとおり、科学分野と技術分野は共にその発展のために「公開性(オープン性)」を必要としてしている。そしてこの思想は科学技術が生まれて以来、営々と受け継がれて来たものに違いない。
現代も当然その延長線上にある。オープンソースプロジェクトを避けて現在のIT分野の隆盛を語ることは決してできないであろう。



■ 蛇足:オレはこう思う

  1. 実装にまで持っていった特許はお金を生み、理論・実験ベースの学術的論文はお金を生まない。この対比がプログラマの哲学「アイデアに価値はない(実装した者勝ち)」と符合して興味深かった。
  2. 自分で書いておいて何だけど「科学技術の発展に寄与する」⇒「そしてそうすることで社会に便益をもたらす」かは少し怪しい部分ではあるね。
  3. 特許の問題は情報(≒技術)革新のスピードが早まってきていることと整合性がとれなくなってきていることから生じているんじゃないかな。


@ymkjp

*1:例えばDVDの規格にも利用されている「パテント・プール」(特許権一括管理方式)はライト兄弟の飛行機の特許問題に対応し考えだされたものだ